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見知らぬ紳士。

私が小学生だった 暑い夏のある日。いつもの駄菓子屋さんで 虫のシールがおまけでついているチョコレートを買いに行こうと、駅前に通じる道に出るために 神社の鳥居の下を抜け 玉石の敷かれた曲がりくねった道を歩いて 近道を選んでいた時でした。

「タマムシのシールが出ますように・・・。あの綺麗な まさに玉虫色のきらきらのシールが出たら・・・もう他には何もいりません。どうかどうか、タマムシが出ますように・・・。カブトムシならまだいいけど、カマキリはもういりません。」

なんて考えながら どちらかというと急ぎ足で、歩いていました。うつむきながら歩いていたので 気付かなかったのですが、前をゆったりと歩く人の気配がしたので 目を静かに上げました。

足元から すーっと見上げて・・・顔に到達するまで しばらくの時間を要したような気がしました。私が子供で背が小さかったことと、その人の背がすごく高かったためと気付くことになりました。全体の姿を視野に入れたとき ある衝撃を受けたことを今でもしっかりと思い出すことが出来ます。

茶色の革靴に 白いスーツ。手にはステッキを持ち、頭にはストローハットといういでたちのその紳士は 実は白髪のおじいさんでありました。こんな田舎に およそ似つかわしくないその存在は テレビの中の1場面を見るような感覚でした。

ただそんな紳士と出会った。というだけのことであれば さして衝撃を受けることのほどでもなかったと思います。では、何故こんなにも心に残ったのかと言いますと・・・。

子供の頃は 洋服の知識も無く、その紳士が着ていた白いスーツの素材が麻であったと知るはずもありません。大人になり 初めて認識できたことではありますが、風にゆれるしなやかなジャケットの裾、きちっとプレスされたスラックスの折り目・・・間違いなく、糸の細い苧麻(ラミー)のスーツでありました〔亜麻(リネン)のごわつきが無かった〕。そして、綺麗に磨き上げられた 革の靴、ステッキ、帽子・・・何度も言いますが 田舎に似つかわしくないそのスタイルだったというだけでは ただ通り過ぎるだけのちょっとお洒落な老人としての印象しか残らなかったはずです。

頭の中に鮮明に 今でも写るのは、その颯爽とした歩く姿であります。周りの大人にはいなかった位の長身で、背筋が本当にすっと伸びて 美しかったのであります。田舎育ちの子供の心にも訴えかける 毅然として颯爽とした美しい歩みだったのです。照りつける夏の午後の太陽がその紳士の生き方さえも 映し出しているような気がしてならなかったのです。

早足に対しゆっくり歩きなので その老紳士を追い越すのは、一瞬のことでありました。何かわからず受けた衝撃を受け止めた瞬間、子供の私は 「自分もあんなおじいさんになりたい。」と心底思っていたのです。

追い越しただけのその見知らぬ紳士は 今も私に 「どんな塩梅だい?」と問いかけつづけてくれているのです。

結局 その日もタマムシのシールを手に入れる願いはかないませんでしたが・・・・・・・。

さぁ、お茶の用意が出来たので、たまには ゆっくりとそんな話でもしてみましょうか?

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